井上大辅
TSUBA
トラウマならぬ、ネコポニーの話(千原ジュニア)から思い出したことがある。
正確には定期的に思い出すことなのだが、
小学校の社会科見学で国会議事堂に行った時の話だ。
議事堂の前で、整列して座って待機していたら、
1人の特別支援学級の子が、列から飛び出し、
声を発しながら議事堂の入口の方へ走っていった。
議事堂の前には警備員つまり警官が数人並んでいて、
その姿を見るだけでも怖い感じがしていたが、
さらに、飛び出した子に向かって警官の1人が怒鳴った。
そして、先生が数人がかりでその子を慌てて捕まえて、列に引き戻した。
『臭いものには蓋をしろってことか』
私の担任の山崎先生が小声で隣の先生に呟いた。
警官の怒鳴り声にも、先生の一言にも驚いた。
なぜ私たちが怒鳴られなきゃならないのか。
そして、なぜ私たちは『臭いもの』なのか。
山崎先生は、飛び出したのが普通学級の子だったら、
その子を叱って、それで終わらせていたかもしれない。
特別支援学級の子だったから、ああいう発言に至ったのだ。
と、私は当時から結論づけている。現在も同じように考えている。
飛び出したその子に直接話しかけることもなく、遠巻きな距離感。
山崎先生は毎朝校内をジョギングしていた。1日も休まずに。
そして毎ランニングで、ツバを吐いていた。校内で。生徒が掃除する校内で。
山崎先生は1日も休まず、校舎に唾を吐いていた。
それ以来、歩きタバコと歩きツバ吐き、歩きレッドブルをする人に遭遇すると、嫌な気分になる。
私にとっての『臭いもの』。
しかし大事なのは、私のダンスを観に来る人の中に、そういう人がいるかもしれないということだ。
劇場はそういう場所だ。
『臭いもの』などと知らんぷりはできない。